眠れないミッターマイヤー

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part1

イゼルローン要塞に転属し、兵舎に案内されたミッターマイヤー。
まだ部屋割りが決まっておらず、案内役のロイエンタールの部屋へと案内される。
ロイエンタールは、一人で士官用の特別室を使っていた。

「部屋割は明日やろう。とりあえず今日は俺の部屋でいいな? 荷物ここに置いといていいから。そこのソファで寝て」
「俺の部屋……?」

夜、消灯時間がすぎ、ソファに寝転んでも、ミッターマイヤーは中々寝つくことができなかった。

……父さん、母さん、事件です。
あの、遊び人で、女と見れば見境なくベッドに引きずり込み、平気で捨てるという噂のロイエンタールと同じ部屋に……。
俺男だけど……いや、もしかしたら女じゃ飽き足らず、男でも襲うかもしれないっ(←噂の拡大解釈)
はあ、どうすべ……。
その距離わずか、3、40センチ。
事件ってほどじゃねえが、大ピンチです。
いきなり襲われたら、どうすべ……。

「いやいやいや、それはないよな?」
ぐるぐると妙な想像が巡り、真夜中というのに、疲れているはずなのに、逆に目が冴えてしまう。

そうだよ、落ち着こう。
いくら漁色家でも、男には手出さないだろ。
いやいやいやいやいや………。
でもロイエンタールって、社会人のルール無視で浮き名を流してきたスキャンダラスな男だべ。
夜になると仕事を忘れ、そういった方面の欲望を押さえきれず、理性を失い、野獣と化して……!

「いやいやいやいやいや、いくら何でも男には手を出さんだろ……」

「うるさい、ブツブツ言ってないで早く寝ろ」
向こうのベッドから冷たい声が飛んで来る。
「すいません……」
ミッターマイヤーはとにかく眠ろうと、毛布を顔の上までかけた。

はあ、やっぱり眠れない………。
…… オフレッサー上級大将が1人、オフレッサー上級大将が2人、オフレッサー上級大将が3人、オフレッサー上級大将が4人、オフレッサー上級大将が5人、6人………。

「ミッターマイヤー、怒るぞ」
「すいません……」

やっぱりだめだ、眠れない。
…… フリカッセが一皿、フリカッセが二皿、フリカッセが三皿、フリカッセが四皿、五皿、六皿………うわあ、食いきれねえほどある♪

「だからやめろって!」
がばっと起き上がり、こちらを睨んでいるロイエンタールがいた……。

 
 

part2


やがて、ミッターマイヤーの部屋が決まった。
平民用の狭い部屋で、数人の兵士が、壁際に二段ベッドを置き、その隙間にまた寝袋を並べて雑魚寝といういかにも下積みという部屋である。

一方、ロイエンタールは、一人で悠々と特別室を使っていた。


……トントン。

「(こんな時間に誰だ……)」
「すみません、眠れません!」

ミッターマイヤーである。
こうやってロイエンタールの部屋に転がり込んで来るのは、何度目だろう。
どうやら夢中になると、夜を徹して戦術などについて考えてしまう性格らしく、その都度平民用の部屋を追い出されてしまうらしい。
確かに平民は狭い部屋にぎゅうぎゅうに押し込められ、夜中まで本を読んだり議論したりすることもままならないのだが。

「また眠れないのか……」
「はい……」
「君は……いくつだ?」
「えっと……」
「もう寝なくて良いから、とにかく布団の中でじっとしてなさい」
「でも、いろいろ考えちゃって…無理です……」
「い、いろいろ………?(半分目が開く)」
「今度の同盟との戦いの事で……」
「(あー、そっちね……)…わかったから明日にしよう。睡魔と戦いながら……良い事言うの、難しいんだ……」
「はい………」
「今夜は俺の部屋で寝ていいから」
「ありがとうございます。寝袋持って来たんで(にこ」
 
…………
 
 
「くかー……」
「何なんだよこいつ、人の部屋で熟睡しやがって……」
だがその寝顔は、あまりに無防備だった。
「(くっそ、平和な顔して寝てやがる……俺が眠れなくなったじゃないか)」

今夜も安定の熟睡ミッターマイヤーと、眠れないロイエンタールの姿があった。
 
 
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